十六夜の厭世的雑録

人生をそんな深刻に考えるな・・・永久に続くものじゃないんだから。

後か先か

谷内六郎の「心のふるさと」という本の中に「いいオカズは一番後で食べる」と題した一文がある。
谷内さんは最初の1杯は梅干や漬物で食べ、2杯目から少しずつお膳で一番ゼイタクなものに手を入れる、と書いている。


「イワシのフライだと二ハイめの時に皮、つまりフライのコロモだけを食べます。三バイめの時に身を食べるのです。
はじめから身を食べちゃうと、前後にウメボシで食べなければならないので、いつまでも今夜のオカズはウメボシだけだったという印象しか残らないのです。
芝居でも大スターの出てくるのはおしまいの頃で、フィナーレといって前後に豪華にするのもやはりこの心理と同じだと思います。」


このあと、最後に残しておいたフライを食べようと思ったらお腹が一杯で、無理にフライを食べたがちっともウマクなかった、といった失敗談も書いている。


谷内さんの人柄が出ていてほのぼのしてくる。
食卓の様子も目に浮かぶようだ。
それにしても、一番贅沢なオカズがイワシのフライだった時代が日本にはあったのだ。


私も好きなものは後で食べる方だ。
飽食の時代と言われて久しいが、贅沢なオカズが幾つも並んでいては、谷内さんが書いたような「いいオカズは一番後で食べる」といった楽しみもなくなってしまったような気がする。
あまり豊かでなかった時代の方が、心の贅沢が出来たのかもしれない。


谷内さんは、晩年、ねむの木学園に関わっていた。
子どものころは喘息で入退院を繰り返していたが、晩年は幸せだったと思う。


「いいオカズは一番後で食べる」、谷内さんらしい生涯だった。