十六夜の厭世的雑録

人生をそんな深刻に考えるな・・・永久に続くものじゃないんだから。

「イヤダカラ、イヤダ」

内田百閒が芸術院会員に推薦されたとき、辞退の理由として口にした言葉が「イヤダカラ、イヤダ」とされている。
実際には、もう少し長い遣り取りがあったのだが、ここでは省略する。
「イヤダカラ、イヤダ」は、いかにも百閒先生らしい言葉である。


しかし、「イヤダカラ、イヤダ」とは、なかなか言えない。
相手を慮ったり、相手の圧力を感じたり、妙な遠慮をしてしまう。
「イヤダカラ、イヤダ」と言えたら、どんなに気持ちがいいだろう。


内田百閒の作品のひとつに、「ノラや」がある。
野良猫のノラに、一喜一憂する百閒先生の姿が、滑稽でもありいじらしくもある。


ところで、南木佳士の「トラや」という作品がある。
タイトルは、百閒の「ノラや」を意識したらしい。


佐久総合病院の呼吸器内科の医師だった南木さんは、「ダイヤモンドダスト」で、第100回の芥川賞を受賞している。
そして、芥川賞を受賞した直後の38歳の秋にパニック障害を発病し、鬱病に移行してしまう。


そんな中で、慰めとなり心の支えとなったのが、野良猫でいつの間にか飼うことになったサバトラ模様のトラであった。
南木さんも書いているが、鬱がひどいときは書くことはもちろん本を読むことも出来なくなってしまう。


私もそんな時期があった。
そのような時に、唯一読み返すことが出来たのが「トラや」であった。
何度も読んで、大いに癒された本である。


いつの間にか、私にとって南木佳士は、読む精神安定剤のような存在になった。


「ノラや」と「トラや」、どちらも私の好きな本である。


フウセントウワタ(風船唐綿)


フウセントウワタの実