十六夜の厭世的雑録

人生をそんな深刻に考えるな・・・永久に続くものじゃないんだから。

月光

やっと暑くて長い夏も去り、月の光が冴え渡る季節になる。


そんな夜は、ベートーヴェンの「月光」を聴くに限る。
それも、ベートーヴェン弾きと言われたウィルヘルム・バックハウスがいい。


バックハウスを初めて聴いたのは、幾つの頃だったのだろうか。
あの時の月の光と、今節の月の光も同じはずなのに、随分違って見える。
私が変ってしまったせいなのか。


地球という小さな惑星の、日本という小さな島国の、小さな家の小さな部屋で、私は広大な宇宙について考える。
そして、人の一生について考える。


「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」・・・か!
「おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし」・・・なのだ。
人の一生は、「風の前の塵に同じ」・・・なのかもしれぬ。


プレパラートを覗き見るような気持ちで、私は自分の心の襞を見ようとする。
不安と恐怖と懊悩と諦念、そして安逸・・・


アダージョから始まった「月光」が、プレスト・アジタートになっていく。
バックハウスも、すでにこの世を去った。


ルリマツリ